歌遊泳: 1961年 国民的歌謡と、2010年(熊沢誠:著)『働きすぎに斃れて』
上を向いて歩こう (作詞:永六介、作曲:中村八大、歌唱:坂本九。1961年10月発売)
60年安保の翌年の発売です。
「所得倍増」へ向かう社会を支える国民は、すでに「違う上」を向いて歩き始めていた。 そのことへの自覚的な「わだかまり」を取っ払う大仕事に、この歌は貢献させられた(?)。
当時の少年少女は誰も、この歌に励まされた記憶さえ持っている、
坂本九さんとこの歌に、悪印象を抱えている人に出会ったことがない。 が50年後、社会は能力主義・成果主義を前提にして共助風土解体の社会を作り出し、熊沢誠先生の近著『働きすぎに斃れて』 (岩波書店¥3200)の渾身のレポートが挙げた、夥しい「過労死・過労自殺」の葬列を築き上げた。 今、若者は「燃え尽き、斃れるまで働く」正社員の道か、さもなくば非正規社員という名の 「明日を描けない使い捨て」かという、「上」も「横」も向けない二者択一を迫られている。 著作は、葬列に寄り添う者からの、遺された者への、喘ぐ若者への、労働組合の社会的任務を手放さない者への、痛切の応援メッセージだと読めるのです。 歌が本来言おうとした意味を復権させないと坂本九さんも浮かばれまい。 (近々、熊沢著作への「読後感想文」を当ブログにアップするつもりです)