たそがれ映画談義: 池部良の、「大きな背中」と「着流し姿」

池部良。 戸田菜穂が語る「大きな背中」と、映画『昭和残侠伝』での「着流し姿」 
  
 戸田菜穂インタヴュー記事(4月16日読売夕刊)より:
                                                                                                     『確か、23・24歳の頃だったと思います。池部良さんに恋をしたんです。
「早春」のビデオは、小津安二郎監督の映画を見ようと思って、たまたま手にしただけでした。
ところが池部さんのたたずまいが美しく、言葉も話し方もきれいで。
浮気をする悪い男の役なのに、世の中に対して斜に構えている感じがとっても色っぽくて。
あまりにほれこんで、池部さんに会いたくなって、サイン会にうかがいました。
                   「あら、あなたじゃないですか」。私の顔ぐらいはご存知だったみたいです。』            
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戸田菜穂さん。好きな女優の一人だ。
池部良の『役者として誇りをもって生活しなさい』 『楽屋で編み物をしているようじゃだめだ』などの言葉を得て、                                                              『池部さんのとても大きな背中を見続けています』と語っている。 もちろん羨ましくはある。                                                                                                                                                                                                      『早春』(56年)                                                                                                                        監督:小津安二郎、出演:池部良、岸恵子、淡島千景、杉村春子、笠智衆。   http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD24688/story.html
 
                                                                                                               
                                                                                  『昭和残侠伝:死んで貰います』
  
池部良と言えば『昭和残侠伝:死んで貰います』(監督:マキノ雅弘。70年9月、東映)などのラスト前シーンは一部からもてはやされた。                                                                「お約束」の非道な(ルール違反の?)ヒール役組長に堪えに堪えた果ての、報復劇だ。                                                                                                                              「お約束」というのは、65年~72年まで続いたシリーズ全作を通じて同じ池部・高倉のコンビ。毎回、コンビで破滅に向かう「物語」も大同小異。                                                                                                                                前作で死んだことなど「お約束」の前では些細なことなのであった。 何しろ背中では唐獅子牡丹が吠えているのだ。                                                                                
池部が健さんに言う、「ご一緒、願います」。 「着流し姿」の二人は夜道を死地に赴く。 評論家どもが男同士の「道行き」だと言っていた。                                              http://www.youtube.com/watch?v=JjuDwUyZhv8    http://www.youtube.com/watch?v=6FGVUq5K7Jw&feature=related                                                                            同じ年、直後11月、三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地内の総監室で割腹自殺した。 
ぼくは、池部・高倉の「道行き」にシビれた多くの70年映画館左翼(池袋の文芸座などで、小僧がスクリーンに向かって拍手し、床を鳴らし、
大きく同意の声を掛けていた。付和雷同の喧しい連中だった。コラ!何が「異議なし!」やねん!) の一人では決してないが、
それまでのヤクザ映画には居なかった孤高の、スマートな、足を洗って生きる元ヤクザ像は、池部ならではのハマリ役だったとは認める。
認めるが、当時のあの「喧しい」連中の、社会への憤激をぶつけに来ているのか?と思える風景には、
本来向かうべき相手に向かえよ!と強く思った。攻撃的「カタルシス」の一現象か?
せっかくの池部良への共感を妨害されて芽生えた、彼らへの違和感の記憶の方が大きい。
いま、出口なき不況と格差社会下で、近似の憤激・精神構造を抱える若者が「排外主義」に回収され、「逆・草の根」となり、
コスプレ軍服の一群となって民族差別を叫んでいるとしたら、見過ごせないと危機感を持っている。
それを思想的・運動的に誘導・引率する存在が見え隠れしていると思うから・・・。
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 もちろん『世の中に対して斜に構えている』と言う戸田菜穂さんの、『早春』池部良への感じ方に異論はない。
「背中を見続けています」と言える対象が居ることは、得難く大切で素晴らしいことだ。
ぼくの場合、ン十年の時間の中で一人二人居るにはいるが、先方には大いに迷惑なことだろう。
翻って思うに、メタボ爺たるぼくが、その「小さな背中」を「見続けています」と言われることなどないことだけは100%確かだ。
万一、何かの間違いで、奇特な女性が居て食事することになったとしても、我が「夫人」は食事会を信じず、
「独りでタコ焼きでも食っときなよ!」と言い放って、きっと同席してくれないだろう。                
                                                                                                                                                  『早春』の、戦争記憶を仕舞い込んで生き、丸の内に勤めはしているが会社的出世に欲は無く、戸田菜穂さんが言うように「斜」に構えている夫。 子を喪った妻:昌子(淡島千景)の哀しみも充分解っている夫、杉山。   千代(岸恵子)との関係を「間違い」(時代制約言辞か)と言ったが、千代の「男の従属物たる人生など拒否するわ」という姿勢に、「戦後」的プラス価値を認めている夫、杉山。
                                                                                          『昭和残侠伝:死んで貰います』の、かつて人を殺めたヤクザ稼業の足を洗い、板前として寡黙に生きる、風間。                                       荒んでヤクザになった果てに刑務所から戻って来た若旦那:秀次郎(高倉健)を支えて店を守り、                                   とうとう秀次郎のやむにやまれぬ行動=非道ヤクザへの「報復殴り込み」に同行する男、 風間。 
                           
いや~、杉山の「大きな背中」(戸田菜穂談)と 風間の「着流し姿」には通底するものがあります!                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

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