つぶやき: 太宰と吉本 生涯一度の出逢い
リ・ダイアリー 08年11月。
東京では、「東京人」という薄い雑誌が、どこの書店にもある。その月は太宰治特集だった。
表紙を見ると「吉本隆明」が何か言ってるようなので購入した。
吉本が無類の太宰ファンであり度々太宰を論じていると知っていた。
電車の中でパラパラ捲ると、吉本の写真付きの記事があった。その老人ぶりに驚いた。
吉本(現在84歳)は戦後間もなくの学生時代、
学生芝居で太宰の戯曲『春の枯葉』を上演しようとなり、仲間たちを代表して
三鷹の太宰宅を訪ねる。太宰は不在だったが、幸い太宰家のお手伝いさんから
聞き出し、近くの屋台で呑んでいた彼を探す出す。
当時の人気作家と無名の貧乏学生=のちの詩人・思想家の出会いだ。
そこで、こう言われたという。
『「おまえ、男の本質はなんだか知ってるか?」 「いや、わかりません」と答えると、
「それは、マザー・シップってことだよ」って。母性性や女性性ということだと思うのですが、男の本質に母性。不意をつかれた。』
もう一つ。選んだ戯曲『春の枯葉』について語ってくれたという。
『中に、<あなたじゃないのよ、あなたじゃない。 あなたを待っていたのじゃないのよ>
と流行歌を歌う箇所があるが、 「<あなた> というのはアメリカのことを言ってるんだよ」って教えてくれた』
翌48年、太宰は心中する。
吉本は親友奥野健男と二人だけの追悼会をしたという。
マザー・シップ・・・。ふと、取り上げてきた、石川節子・与謝野晶子・マルメンマキ『戦争は知らない』・『カナリア』のユキ:谷村美月、 清作の妻、サイドカーのヨーコさん、… 彼女たちを思い浮かべている。
太宰と吉本の60年余前の、たった一度の出会い。ええですなぁ~。
当時の三鷹駅近くの風景写真も添えられていたが、
この両師の安屋台での出会いのエピソードだけで、
戦後の風景や香り、街行く人の表情、
占領下の天皇・皇国主義者・戦後政権から「解放軍」と規定した日共まで・・・
公民挙げて例外なく浸った、強大なものへの「完全脱帽」(加藤典洋)、
敗戦直後この国に「在り得たはずの」幻の「国のカタチ」その可能性・・・『敗北を抱きしめて』が描く人心・・・・多くのことが浮かび上がる。
下記の太宰の写真、場所は銀座の「ルパン」です。http://ittetsu-narita.com/blog/で成田一徹さんも書いています。
昔、先代がまだ元気な頃、成田さんと娘(太宰が好き)と三人で行ったら若い娘なんて来ないバーだから、先代がえらいサービスで、
太宰がここに座ってカメラの引きが取れないからトイレから撮ったとか…。織田作之助はここでねとか…。身振り手振りで熱演でした。
同じ名字だけれど隆明ね。「原点が存在する」なんて。「超戦争論」なんかも面白かったですね。
時は流れ若き日の思い出や…。橋本と吉本が会ったのも30年以上前ですな。
こんど東京で会ったら「ルパン」に行きましょう。