歌遊泳: 作者、自作を唄う
作者本人の歌唱には、歌誕生の原点と迫力がある。
(カッコ内はヒットさせた歌手) 船村徹 『別れの一本杉』 http://www.youtube.com/watch?v=gbA15I5_zQM&feature=related (春日八郎:http://www.youtube.com/watch?v=XaKQL1M0vmU&feature=related) 『風雪流れ旅』 http://www.youtube.com/watch?v=LeR9i3cpt8o&feature=related (北島三郎:http://www.youtube.com/watch?v=KpFjuI6iQrg) 『みだれ髪』 http://www.youtube.com/watch?v=flbOa1pCAZc (美空ひばり:http://www.youtube.com/watch?v=1WQRBMV9e7Q) 「遠い遠い 思い出しても遠い空」 「バチがなければ櫛でひけ」 「舟にのせたい この片情け」。 ふと抜き出した三つの節にも、作者の原風景が宿っているぞ。悪いが、その歌唱には歌手たちより迫り来るものがあります。
中島みゆき 『春なのに』 http://www.youtube.com/watch?v=ykE-z7Ltpdk (柏原芳恵:http://www.youtube.com/watch?v=xuq91T2TkGQ) いささか過剰な歌い込みだと思えた「春なのに お別れですか?」のくだりが、近頃は作者:みゆき姉さんならではの名歌唱だと思えて来る。 「お別れですか?」には他の誰にもないみゆき節の語感・抑揚・情恨がへばり付いていて一度聴くと耳から離れ難い。
小椋佳 『夢芝居』 http://www.youtube.com/watch?v=RO06KPWU7zo (梅沢富美男: http://www.youtube.com/watch?v=zHV0WGaZ8vM) 『愛燦燦』 http://www.youtube.com/watch?v=20IutvIryNo (美空ひばり:http://www.youtube.com/watch?v=0gOrorW-DZE) 他の誰が歌っても力みに聞こえる箇所も、小椋さんにかかればサラリと淡々と唄われ、かつ深い。この人のように歳を重ねたいと思っていたが、今では己にはそれは無理なことだと自覚している。
財津和夫 『会いたい』 http://www.youtube.com/watch?v=kzOXIdWg-0k (沢田知可子:http://www.youtube.com/watch?v=FyLLYvGutSk) 1990年、沢田知可子が歌い大ヒットし、その年の「有線放送大賞」も取ったという。当時、工事現場や現場への車内でしばしば聴いていた。財津の作曲と知ったのはここ数年のこと。その味わい深さに感服している。
古謝美佐子 『童神』 http://www.youtube.com/watch?v=V7V-wJYlggc (夏川りみ:http://www.youtube.com/watch?v=GLWsZmfU10Y) 初孫の誕生を前に作詞したという古謝美佐子さんの歌唱には、琉球・おんな・いのち というものの全てが芯から力強く溢れていて、琉球のこころへと誘われる。
新井満 『千の風になって』 http://www.youtube.com/watch?v=Lt43pjM80Hc (秋川雅史:http://www.youtube.com/watch?v=yqzCwcL9xDc) 原詩の訳及び作曲の新井は、1946年生まれの同世代者。映像や写真や絵本を手がける多才な人物。88年『尋ね人の時間』で99回芥川賞受賞。 この歌は秋川雅史が唄ってヒットし、以後加藤登紀子・鮫島有美子・岩崎宏美なども歌っている。が、ぼくには作者:新井(訳詩/作曲)の歌唱が一番腑に落ちる。クラシック調で朗々と唄われては墓の主が「違うぜ」と言っているような気もするのだ。*******************************************************************************************************************************************
ところで、 ある宗教や「教え」や哲学や思想やイデオロギーが、原初に持っていた輝き・生命力・巾と深度・柔軟と謙虚などを失い変貌しているとしたら、 あるいは逆に 発展的変化を為せず硬直し、否定的な意味で「原理主義」と呼ばれる存在であるとしたら、それはある意味で当然なのだ。 原初の歌は、それが生み出された時代の関係性の中で輝いているのだ。 後代の者は、原初の歌の気概・志・奥行き などの核心を掴み取り、自身の時代に相応しい歌として再創造して唄うべきなのだ。 原初の核心を放棄し制度化・秩序化された姿も、自己肯定の醜い連鎖だけを繰り返す「原理主義」も、ともに聴き手に届くことも響くこともない。