アジール 空堀: 二月、お話 『キム・ホンソンという生き方』
2月18日(木)19:00~ 「アジール 空堀」2月度集い(お話と食事の会):
『キム・ホンソンという生き方』
12歳の時兄上の家内工場での事故で両手の先を喪い中学通学を断念してから、孤独な読書とTV名画座に明け暮れた自宅内での苦闘の末、文字書き・食事・生活能力を獲得する。新聞広告で目にした大阪文学学校は、問合せ電話で伝えた「在日・障害・中学を出ていない」に「そんなんは関係ありません」と答えてくれた。姉上に付き添われ入学する(1970、18歳)。
「雨の降りそうな日はどうしよう」と思案し、植木等のCMで有名な「何である、アイデアル」からワンタッチ開きの折畳傘を知り、そうだこれだと思い付く。が、後日そのCMが何年か前から流れていたと知る。
金洪仙さんの語りの圧倒的な力強さの、その根拠を知るのはここからだ。
『自分は外に出よう・文学学校に行こうと思えてはいなかった日々に、このCMを何度も観ただろうに、その利便性と能力に気付かず見過ごしていた。自分の身に振りかかる困難があって、自分に切実な希いや要求が生まれそれを強く持てた時、人は見えなかったことに気付くのだ。』と自覚する。
そう思える知力・想像力・相対化力・俯瞰力、つまりは本源的「謙虚」こそが、彼女の力強さの根拠であり、お話や人柄から滲み出る「ポジティヴ」の震源地だ。それは、例えば「かつて子ども時代に乗ることが出来た自転車に乗ろう」と挑み成し遂げてしまう、「したい」から「できる」へと構想する考えの組み立ての根拠にもなっている。あゝ、お気楽に生きて来た我が身が丸見えだ。
大阪文学学校は彼女にとって「私の大学」なのだが、そこでの数々の珠玉の出会いと親交は書物でも紹介されている。
生涯の師と言える金時鐘さんが、彼女も聴いている場で「ミロのヴィーナスは、なぜ美しいか」と語る。その言葉に「あゝ、私のことを言ってくれている」と感じた感動と、生きる決意を確認するくだりは、震えるほど輝きを放っていた。金時鐘さんが続けて何と語られたのか、本をまだ読んでない方は、是非ご購入してお読み下さい。