つぶやき: もうひとつの 『あなたの行く朝』

「あなたの行く朝」

 

いつの間にか 夜が明ける 遠くの空に

窓を開けて朝の息吹を この胸に抱きしめる

あなたの行く朝の この風の冷たさ

私は忘れない いつまでも

もしもあなたが 見知らぬ国で 生きていくなら

その街の 風のにおいを 私に伝えておくれ

あなたのまなざしの 張りつめた想いを

私は忘れない いつまでも

(語り)

『海の色がかわり 肌の色が変わっても

生きていく人の姿に変わりはないと

あなたは言ったけれど

あの晩 好きな歌を次から次へと歌いながら

あなたが泣いていたのを 私は知っている

生まれた街を愛し、育った家を愛し

ちっぽけな酒場やほこりにまみれた部屋を

愛し 兄弟たちを愛したあなたを

私は知っている』

 

いつかあなたが 見知らぬ国を 愛しはじめて

この街の 風のにおいを 忘れていく日が来ても

あなたの行く朝の 別れのあたたかさ

私は忘れない いつまでも

 

登紀子さん自身が『歌い綴る自分史』(http://www.tokiko.com/jibunsi/jibunsi24.htm)で語っているように、後の夫:藤本敏夫氏がいよいよ収監される日が迫った1972年4月21日、「日比谷公園のパーラーで友人たちが集まり、ビールでにぎやかに乾杯。大勢の人の中ではいつだってそうだったように、私の方には一切の関心を見せない彼の姿を、勝手に自分の心の中で見送り、私は一人そこから飛行場にむかった。」

「ずっと後になって作詞作曲したのだけれど、『あなたの行く朝』はこの時の別れの心の中の風景だ。」そうだ。

それが事実だろう、ご本人が語っているのだから…。

だがぼくには、どこかで聞いたこの歌を巡る物語があって、誤情報だと言われてもそのほうが心に刻まれて来た。あなたの行く朝

この歌詞は、1971年2月遥か中東へ発つ親友女性Sさんに贈る、

翌1972年1月極寒の山岳地帯で命を終えることになる女性Tさんからの惜別の歌だと聞いていた。

「あなたのまなざしの 張りつめた想いを 私は忘れない いつまでも」という正に「張りつめた」歌詞が、

聞いて来た誤情報と結びつき像を成し、永くぼくにとって救いでもあった。

Sさんの親友Tさん、この歌詞…。ぼくはそれを、無惨な死の向こうに消え入るように儚く揺れる一条の弱光として無理設定し、見つめて来た。

彼女の瑞々しくも気高い精神性の証として・・・、原初の精神綱領として・・・。

 

 

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