読書: ねじめ正一著『荒地の恋』
ねじめ正一著 『荒地の恋』(文芸春秋、¥1800)を読んだ。
面白かった。痛ましかった。羨ましかった。
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戦後詩を牽引した「荒地」(あれち)。
識者は、戦後詩の出発も完成も「荒地」の同人達の手によって成ったといっても過言ではない、と言う。
同人は、田村隆一・鮎川信夫・衣更着信・黒田三郎・中桐雅夫・北村太郎・吉本隆明ら多士済々。
実際、文字通り現代詩・戦後詩の格闘の最先端に立って、詩的荒野を切り開いた面々だ、と聞いた。
『荒地の恋』は、「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」
(http://d.hatena.ne.jp/exajoe/20070524)と詠った詩人:田村隆一の、
その妻:明子と、 田村の学生時代からの親友にして「荒地」同人:北村太郎との
「熟年」の「不倫」の「恋」を描くのだが、
罪深くスリリングで、耽美で破滅的な関係を描きながら、
炙り出され浮かび上がる背後の「荒地」世界・・・。
還ってゆくところ魂のふるさとは、「荒地」なのだという身に刻印された宿業と、
明子も太郎も、当人たちの関係よりも結局は「荒地」を愛したのだという屈折と、
そのてっぺんには田村隆一という巨壁がいたという事実と、
最初の妻(あなた、わたしを生きてくれなかったわね)と息子を 同時に喪い、
忘れる日などない北村の喪失感と、
・・・・と、 ・・・・と。
後半残り三分の一に来て、俄然引き込まれる。泣けて困った。
「荒地」の面々が次々逝く。黒田三郎・中桐雅夫・鮎川信夫・・・・そして北村太郎本人。
人は、願おうが願うまいが、死に向かって生きているということの無常が迫る。
お互い激しく罵り合い陰口を叩き合い、信頼しあった仲間・戦友・・・
人は、男も女も、皆、それぞれの地でそれぞれの暮らしに在って、それぞれの課題にそれぞれの方法で、
それぞれの闘いを生きて来たのだ、今もそのはずだ。
むろん、ぼくの場合は、たそがれるのが精一杯の 品川宿居残り野郎。
『荒地の恋』は、彼ら「荒地」派の 死に向かって生きる(生き抜く)魂を淡々と描いて秀逸。
われらは、こんな「戦」友を持っているだろうか・・・。
友はぼくを友と思っているだろうか・・・?
人生は、死までのモラトリアムなのだろうか・・・?
(添付の田村隆一・北村太郎の画像、ええねぇ~! 世界を相手にする者の顔だ)
【荒地派、没年】
黒田三郎:1980年1月(60歳)
中桐雅夫:1983年8月(63歳)
鮎川信夫:1986年10月(66歳)
北村太郎:1992年10月(69歳)
田村隆一:1998年8月(75歳)
衣更着信:2004年9月(84歳)
追記
吉本隆明:2012年3月(88歳)