エッセイ: 啄木の妻:節子の「初恋のいたみ」

ソプラノ版で知っていた、歌曲「初恋」(詞:啄木、作曲:越谷達之助)を、
先日テノール版で耳にしたとき、「この歌はソプラノこそ似つかわしい」と強く思った。何故そう思ったのかをずっと考えていた。                                                                                                               いま、その理由が分かった。
啄木の初恋の相手、堀合セツ(節子)が唱っていると思えたからに違いない。
                                                                                                                               砂山の砂に腹這ひ
初恋の
いたみを遠くおもひ出づる日
 (『一握の砂』啄木 より)                           
                                                                                                                                                   【歌曲:初恋】     作曲:越谷達之助 歌唱:唐澤まゆこ
 砂山の砂に
 砂に腹這い
 初恋のいたみを
 遠くおもひ出づる日
 初恋のいたみを
 遠く遠く
 ああ ああ
 おもひ出づる日
 砂山の砂に
 砂に腹這い
 初恋のいたみを
 遠くおもひ出づる日                                                                                         http://www.youtube.com/watch?v=9uDjESlhcZ8
 

 
 啄木の初恋の相手とは才媛と謳われた堀合セツ(節子)である。
 岩手県立盛岡中学校二年の時で、当時啄木十三歳。少年の初恋だ。
 セツへの恋は、啄木が短歌に本格的に取り組み始めた15歳の頃から、相互の恋となって育って行ったと言う。セツは、啄木の下宿へ、詩作を学ぶとして入りびたり、街に噂が立ち、セツの父は妹の同行を条件にしたり、次に交際を全面に禁じたりしたが、セツの巧みな戦術で突破される。父は心配し、一途な娘の姿にその前途を案じた。
 1902年(明治35)10月、十六歳の啄木は苦手科目のカンニングが発覚し、退学勧告を受け已む無く退学。それを機に念願の上京(東京に出て、文士になる?)を敢行。同じく十六歳の節子はこう言葉を贈って激励する。
理想の国は詩の国にして理想の民は詩人なり、狭きアジアの道を越え、立たん曠世の詩才、君ならずして誰が手にかあらんや。」と……。
                                                                                                                                                      本文、結び ↓
『あの歌は、期せずして節子の独白だ。節子のものだ。彼女の「生」の証しだ。                                                                                                                                                                                                                 啄木ではなく、 節子こそが「初恋のいたみ」に殉じたのだと思えて来る。  合掌。』
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